先週、長年ほしいと思っていた本が出ていてみごと大人買い。
 それは、ライマン・フランク・ボウム「オズの魔法使い」シリーズなのだ。
 ええっ『オズの魔法使い』なら知ってるけど、"シリーズ"って何。実は『オズの魔法使い』が大ヒットした後、ボウムは書き継いで生涯書き続けたのだ。
それを1974から1994年まで、ハヤカワNV文庫で全巻刊行していたのだ。今は初巻を残して絶版だ。
翌日帰宅して『オズの魔法使い』を久しぶりに読む。懐かしさとともに、佐藤高子さんの訳が素晴らしく、思わず感激し読み終わったときに拍手してしまった。

 もちろん児童ファンタジー小説である。アメリカでは子供のころ『オズの魔法使い』を昔は必ず読んだそうである。必読書だったのだ。ところが米国ではない私も講談社少年少女文学全集で小学生のころ読んだ。
 今は、スピンアウト小説『ウイキッド』のブロードウェーミュージカル化、劇団四季での日本上演と『オズの魔法使い』にも注目が集まっている。ハヤカワ文庫でもこの一冊だけは刊行し続けている。

 『ウイキッド』も劇団四季の沼尾みゆきさんが、いい魔女グリンダ役にオーディションから初日の舞台まで取り組む姿が紹介されたNHK教育「あしたをつかめ 平成若者仕事図鑑」が、2007年7月に放映された。しばらくしてから図書館で『ウイキッド』を『オズの魔女記』 グレゴリー・マグワイア著 広本 和枝訳 出版者 大栄出版1996年10月刊で出ているものを借りてきた。
 そうしてぱらぱらと読み始めたら最悪だったのだ。

 『オズの魔法使い』の序文には、
「民話、伝説、神話、おとぎばなしは子供とともに時代を経てきました。」
「子供というものは、奇想天外で」非現実な物語を好むからで「それが彼らの健全かつ本能的な嗜好なのです。」
「 とはいえ、幾世代にもわたって貢献してきた、昔ながらのおとぎばなしも…<過去のもの>になろうとしています」「今やおきまりの魔神や小人や妖精たちを消し去り、個々の物語に含めたおそろしい教訓モラルを強調せんものと著者たちがひねり出す…より新しい<童話>の時代が到来しているからです。現代の教育にはすでに道徳が組み込まれています。したがって、現代の子供は、童話にひたすら娯楽性を求めます。彼らにとっては、わざとらしい不愉快な挿話など、なくてさいわいなのです。
『オズの魔法使い』の物語は、こういったことを念頭に、今日の子供たちを喜ばせることのみを目標として書かれたものです。驚きと喜びはそのままに、心痛と悪夢を取り去った現代版おとぎばなし-それがこの一編なのです。」(ハヤカワ文庫、佐藤高子翻訳)
 
 読んでわかるのは『オズの魔法使い』の、非宗教性だ。アメリカ文学なのだがキリスト教色がかけらもない。この序文で言及されている道徳やモラルもやはりアメリカなのでキリスト教的なものではと思う。それがないのだ。あるのは、ひたすら解放感。子供たちがいかに解き放たれたかよく分かる。私もいつも自由を味わう。

 しかし、『ウイキッド』は読んだ限りでは、著者グレゴリー・マグワイアが、ボウムが入れなかったものに不満を抱いてこのスピンアウトを書いたとしか思えない。
 一面スピンアウト原作にない宗教とその悪意に満ちている。何しろ後の悪い魔女になるエルファバは、教会の家に生まれる。これ自体『オズの魔法使い』の世界では異様だ。そんな宗教や神父などそもそも存在しない世界なのだから。

 なんて暗い嫌な話だろう。エルファバは緑色の皮膚のため差別される。
 オズの国で?動物がしゃべり、かかしが歩き、ブリキの木こりが生きている国で。
 だいたいオズのエメラルドの都の門番も緑っぽい肌色をしている。また、このスピンアウトでエルファバと名付けられた西の悪い魔女の治めるウインキー人たちも黄色い肌なのだ。これはさまざまな人種と出身国のアメリカを理想社会化した世界なのだ。そして明らかに非宗教的な世界なのだ。
 しかもドロシーをずいぶん悪く描いている。
 そのあまりのゆがみに呆れて少しでやめた。

 ミュージカル版は見に行っていないが、これまで流されている広報などで見ると、どうやら原作『ウイキッド』を非宗教化して、魔法大学での友情物語と差別からの逆転に絞って、よりボウムのオズの世界に近づけたものではと推測される。そして悪い魔女とされたエルファバを主人公にして、その強い生きざまをきちんと描いたことがすばらしい。もちろんエルファバがオズの手によって国から悪い魔女とされるのは残っている。
 原作でもオズはペテン師である。本人も自分で「わしはペテン師なんじゃ」とそう誇らかに返答していて行動している。だから、国の支配者として悪いこともする、という感じを残したのだろう。
 元の世界に近づけたからこそヒットしたのだろう。『ウイキッド』原作そのままではとても舞台にはならないと思う。
 子供のころ読まなかった皆さんにもぜひ『オズの魔法使い』を読んでいただきたい。大人にもお勧めなのだと思う

 ところでだ。買った時数えると13冊あった。しばらくしてから気になった。いくらなんでもキリスト教国で13巻でシリーズを終えるだろうか。調べると最終巻の『オズのグリンダ』が無い。確か見かけたように思ったので買い漏らしたのかと思って確かめに行ったが無い。あれれ、表紙まで見たように思ったのに。
 どんな表紙かというと空から輪の中に乗っていい魔女グリンダが降りてくるのだ。気がつくとそれはウイキッドで沼尾みゆきさんが降りてくるシーンそのもので、脳内でそれを思い浮かべてしまいあったと勘違いしたようだ。
 調べるとやはり全巻で14冊。13巻でないというのに宗教性は残っていたか?しかし『オズのグリンダ』だけは、古書市場でも品薄ですごく高い。最終巻まぢかではみんなが買わずよくある話なのだ。しかも刊行までにシリーズ発刊から20年もかかっている。しかし、これは『オズの魔法使い』の次に評価が高いのだ。

 しかたがないので13冊読んだら『オズのグリンダ』を図書館で借りて読もうとしみじみ思っている。

[劇団四季『ウィキッド』プロモーションVTR]

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【2009/02/02 23:59】 | 奈良たかし・本の話
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