NHKアニメワールド 獣の奏者エリン
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 私が愛する上橋菜穂子『獣の奏者』原作の、アニメ「獣の奏者エリン」の1話が、NHK教育テレビで始まった。開始したばかりだが、うーむ、低学年向けで少し戦いのシーンなど、残酷な複雑なシーンだと御絵描き風の簡略な絵でごまかしている。なんてことだ。しかも、全体に出来が良くない。いかにも浅い作りでおもしろみがないのだ。もうちょっと何とかならないのか。

 原作『獣の奏者』は、2007年の「本の雑誌」の上半期ベストテンの第1位である。すごいのだ。児童書のくくりで多くの人の目にふれないのはもったいない傑作なのだ。いかし、いくら児童書でも対象は中学3年から高校生だろう。NHKは多くの子供に見てほしいのだろうが、これでは正直アニメは1話目で決めて悪いがとうてい期待できない。「精霊の守り人」と大違いだ。おーい、プロダクションI.G
トランス・アーツよ、どうなってる。それとも、悲しいことに私があまりにおっさんのせいか。

 この原作は、児童ファンタジー小説で、日本でいうとだ。鎌倉時代並みの異世界のリョザ神王国が舞台だ。これは日本風という意味じゃないからご注意を。つまりは文明の進展の差だ。機械文明が無いってことだ。西洋でいうと中世だね。

 そして戦争は周囲の国のこぜりあいとして絶えずある。周囲は騎馬民族に取り囲まれ豊かなリョザ神王国占領に野心を抱いている。騎馬民族たちは槍や馬などの通常兵器を使用する。だが、リョザ神王国では周囲に対抗する重武装兵器として、7、8mはある闘蛇と呼ばれる巨大トカゲを使うのだ。逆に占領して少しずつ国を広げている。なんかやな国だ。

 王は真王という称号である。そして戦闘部隊の総司令官の大公がいるのだ。つまりは王権威と軍事権力がはっきりと分かれている。これは異様に思うだろうが、日本の天皇と将軍も同じだ。そして大公も独立した領土を持っていて、各隣国を一部占領していき王領より少し広い。これもまた日本の天皇と将軍と同様だ。ただし将軍のほうがずっとずっと領土は広い。天皇はわずかだ。それでも天皇は権威として日本の王だった。

 真王は、その権威のシンボルを表す王獣という空飛ぶ獣を飼っている。顔はオオカミに似て翼と日本の足で白銀の毛におおわれる。高さは6m程度。

 この物語は、人と文明と軍事がどういう関係なのか解き明かしているのだ。そしてどうしたら平和な生活がおくれるかそれを高学年向けの児童書の範囲で、しっかりと書いた小説なのだ。最初は確かに穏やかにアニメと同じ調子で始まるが、やがて事件が起きる。そしてずっと経って正直2巻半ばからは実は重さを感じた。どうしてかというと…ちょっと話しすぎになる。

 主人公エリンは霧の民と呼ばれる放浪民の母とリョザ神王国の元からの民族の間に生まれた。周囲の黒い瞳と違う特徴として、二人とも緑の瞳を持っている。おかげで何かというと差別されるのだ。大公領の闘蛇の世話をする村が父の故郷で、父は早く亡くなり、母は獣医師としてそこに共に住んでいる。

 村で闘蛇の体の世話をする母。しかし、エリンが10歳のときに母を失い、流され王領に住む蜂飼いのジョウンに拾われる。少し安定するが、5年たって獣医師学校へ行き、お約束で当然成績はいい。それで獣医師となってその学校の教師となる。しかし、軍事と支配者の理屈にいやおうなくまきこまれるエリンが気の毒だった。権力者ってなんて勝手な連中だ。むかむかする。
 しかも、後半8章でエリンが大けがを負うところから私は衝撃を受けた。そして深くふかく戦争と国家の在り方を思ったのだ。これって子どもと大人では合った読み方で、それぞれの深さが決まるように書いてあるのだ。アニメを見て児童書と侮らず読んでいただきたい。本当だよ。ちがうんだよ。

 過去のエリン達の住んでいた山脈向こうの国ぐにが完全に滅亡したこと。これは本当に悲惨で読んでいて悲しくて何てことだと涙ぐんだ。獣たちを重兵器として大量使用して、人間の制御がきかなくなり、暴走して一種の最終戦争が起きたのだ。このため、その獣を操る技を大罪としている。

 エリンは何も知らず王獣と心を通わす。やがて深い関係が生まれる。まあ、やがては裏切られもするのだけど。ところがこれを大罪と霧の民がよんでいて責められる。これはよんでもらわないとわからない。この獣と心を通わすことこそ、この物語の大テーマなのだ。エリンはこの大罪という抑圧にも反発していく。獣たちは冷たい機械じゃない。生きている。それが悪いわけじゃない。人間たちが悪いのだ。心を通わすこともできないなんておかしいんだ。

 しかし、あいかわらずとんでもない破滅戦争になるのに止まらないのだ。エリンは、戦ばかりする大馬鹿な人間というものに絶望して自分の生命さえ捨てようとする。今も権力者って変わらんじゃないか。進歩のない奴らだ。
 そしてあたりまえながら獣たちを殺りくに使われたくない。獣を愛して(も)いるのだ。何とか戦争になるのを止めようとして、必死に動いてエリンもまた傷つく。

 そのラストに闇の中で光を見るのだ。激しくけがをしながらもエリンは獣と新たな関係に踏み込んでいくのだ。それはまあ読んでいただきたい。

 私たちは核兵器や通常兵器でも戦術核兵器と同様クラスの破壊力を持つ兵器に周りを取り囲まれているのだ。使用する言い訳には国家はここかかないんだ。いくらでも何か理由を作り出してしまう。そして支配層は民衆に何か押し付けてくる。こういう理由だから犠牲を払えと。あいつは悪い奴だから殺せと。
 教育と宣伝のおかげなんだろう。、私たちは唯々諾々とそれに乗せられ、自分から行う。これはしょうがないことだ。相手が悪いのだから、と。それでいいのかを考えさせられる。そして権力者たちの勝手と、どんなに「お情け深い」王様でもそんな人たちの言い分に乗っていてはそれではいけないんだと教えてくれるのだ。

FC2blog テーマ:獣の奏者エリン - ジャンル:アニメ・コミック

【2009/01/11 21:51】 | 奈良たかし・本の話
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