優れた漫画家というのはなかなか出ないものだ。人を本当に感動させ大ヒットする。しかも次々とヒット作を生み出せる。

 中でも難しいのは、大ヒット作でブレイクした後。
 故藤子・F・不二夫先生が、「未来の想いで」という漫画でこのことを取り上げて書いていた。才能がある人でも、1作程度なら自分の中の生まれたときからの蓄積と趣味やスタイルでヒット作は描ける。ところが次が問題になる。もう自分の中の貯めた物は使ってしまい、次が描けなくなる。連載終了半年前から、資料集めや、取材やいろんな他分野の優れたものを見たり、それをベースにしてキャラクター設定したりと、地面を這うような地道な努力で、次作を生み出す以外手がないそうなのだ。

 しかし、一度簡単に自分の中身から出た作品でヒットするとそういう苦しい努力ができない。ごく手じかで済ませて、百科事典で見たものを題材にしたりする。それでいい発想が生まれるわけもない。

 これは深刻な問題で、多くの漫画家が1作で終わっている。あの天才漫画家、鳥山明すら『DR.スランプ』、『ドラゴンボール』という奇跡的な漫画2作の後優れた作品が出てこない。彼ほどの天才は別格としてもきらびやかな才能がある漫画家がだめになった例は多くいる。

 特にあまりの次回作のひどさに呆然としたのは、
『キン肉マン』ゆでたまご 1979年から1987年連載

『マカロニほうれん荘』鴨川つばめ 1977年から1979年連載

 「少年ジャンプ」連載の『キン肉マン』は、作者のゆでたまごは何年も全国長者番付に載り、1984年には全国9位となった。それで、漫画家志望のそれまでの漫画が好きだという人たちから、新たにお金目当てという若者が激増した。
 ところがいよいよ『筋肉マン』連載が終わり、3ヶ月後新連載がスタートした。何と妖怪漫画『ゆうれい小僧がやってきた!』で、1987年34号(同年8月) - 1988年24号(同年5月)で新連載直後から調子が悪いのがわかった。挙げ句の果てはプロレス漫画に戻り、それでもやっていけず完全に行き詰まり、キン肉マン記念博物館を出して終了してしまった。あまりにひどいのでそれ以後は見ていない。しかしwikipediaによると次は1年後だが3ヶ月間、その次は11ヶ月後だが7ヶ月で終了。少年ジャンプの連載はそれで終わってしまった。

 ゆでたまごは2人の共同ペンネームだが、島田隆司(ゆでたまご) (全国56 位)、3位 2億7666万 中井義則(ゆでたまご) (全国59位)合算で全国9位 ( 漫画家史上初)
お金のことを書いて申し訳がない。でもお金も大事なのだ。一体このお金は次の作品を生み出すのにどう使ったのだといつも思うからだ。
 もしも、各闘技が好きなら、世界中の格闘技を見て回り、取材して資料を集めるお金があったのだ。
 今また『キン肉マンⅡ世』を描いている。やはりこれしか描けないという状態が続いている。

 少年チャンピオン連載『マカロニほうれん荘』は、鴨川つばめの大ヒット作。しかし、終了後はまるでふるわない。その後「少年キング」に移り連載したが、まるでおもしろくない。
 そして衝撃のことが起こった。まずその連載、『AAO』(エイエイオー)の絵、それが『マカロニほうれん荘』の主人公が現れてカーテンを引くようにそれまでの漫画は消えて、題名は元の、『AAO』のまま『マカロニほうれん荘』になってしまった。結局「マカロニほうれん荘」しか描けないということを暴露してしまったのだ。

 というのが、前ふりである。長かったかな、と思うのですがみなさまどう感じるでしょうか。

 こうしみじみ思うのは、先週神尾葉子『キャットストリート』を見たからだ。あの大ブレイクヒット作『花より男子』の次回作だ。実は第2巻だけ古本屋さんに出ていたので2年ほどというずいぶん前に買った。でも危惧の方が先に立った。当初の頃『花より男子』は、けっしてうまくはなかったからだ。はたして神尾葉子がブレイク後に対応できるのか。
 でも第1巻をはじめとして残りの巻が見つかったら、読んでみようと思っていた。それからしばらくして知り合いの子供の小学校5年生の女の子が第1巻を持っていたので、感想を聞くと「おもしろい」とのこと。

 評判は大して聞いてないのでそうかなと思っただけだった。そして今年の3月最終8巻が出た。すると、7月には翌月末放映でNHKドラマ化が決まったことを知った。これは驚きで終了して早々にドラマの企画が動いていたということだ。このドラマ化の影響か1、3、4、5巻はやっと今年7月古本屋で手に入った。

 そして深く衝撃を受けた。
 主人公青山恵都は9歳の子役の時に、舞台ミュージカルで同じ役を二人でダブルキャストで演じていた友人と思っていた園田奈子に裏切られ3千人の観客の前で幕開けのすぐ何もいえず立ち往生した。それ以来、家に引きこもりとなり7年間を過ごす。小学校も卒業していないので漢字もろくろく読めない。
 その絶望の日々からフリースクールに通い仲間との毎日で立ち直り復活していく。

 凍るような痛みと包む暖かさ、心の傷をいやす効果がある希有な漫画だと思う。
(ネタバレ、注意!!)
 どうしても続きを読みたくなり、6、7、8巻は新本屋で買った。
 ドラマや映画で認められ、クライマックスの8巻で復活時に一度は「もう声が出ないのでだめだ」と厳しく否定された高名な演出家に努力が評価され、恵都は子役時代のように再び大劇場に出演を求められる。そして過去の自分と手をつないで舞台へと歩んでいく時に深く感動して涙なしでは見られない。(これは実は比喩でなく、私はこのシーンを見るといつも涙ぐむのだ。)

 欠点はある。みんな一級の才能がある人間ばかりだからだ。野田紅葉が一番ふつうだが彼女でも服飾デザインの才能がとてもある。
 でもそれでなくては漫画にならないのだと思うし、それは許してあげてほしい。
 すべての傷ついた人たちに送られた漫画なのだ。

 立ち直っていく集まった彼らを指す言葉でもある「キャットストリート」は、渋谷にも同名の場所があるが、それとは意味が違う。

 今日の締めは神尾葉子先生に感謝をおくります。「とても難しいヒット後の作品に全く新たな分野に挑戦して、すばらしい作品を描いていただき、ありがとうございます」 

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【2008/08/26 00:10】 | 奈良たかし・本の話
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