作家の桜庭一樹さんが入籍という衝撃のニュースはこの前書いた。
 しかしもう一つ衝撃のニュースが。

続々・桜庭一樹読書日記 【第12回】[2009年4月]から

いつのまにか、収録(夫は芸人である)から帰ってきて、今夜も、ツタンカーメンの缶のポーズで倒れて眠っている夫をふりかえった。文字が、わたしに、寄せては返し。寄せては……。
http://www.webmysteries.jp/
sakuraba/page/sakuraba0904-2.html



 桜庭一樹さんの夫は芸人?だった。誰なんだろう。 2008年11月1日(土)NHK総合テレビ放送「わたしの1冊 日本の100冊 オープニングスペシャル」で漫才コンビが部屋を訪れていたぞ。それはアンガールズだったが体重が両人とも54、58kgで44、45kgのこの人には合わない。
 下記にある長髪にラー油をつけてしまった、本の女神で、「アングラ舞踊を激しく舞う小狸」(本人記)である桜庭一樹さんを「女の子」とよぶこの人は誰なんだ。


http://www.webmysteries.jp/
sakuraba/sakuraba0904-1.html

中央線沿線の、とある駅。
 から、徒歩10分ちょいの6畳のワンルームマンション。エレベーターなしの4階。
 の、部屋の壁にもたれて、肩で黙って耐えている。
 部屋の中はものすごい荷物の山である。ここはどこか? 夫が長らく暮らした部屋だ。籍を入れた後、わたしが仕事場を借りて本を運びだして、もとの広めのワンルームで同居し始めたものの、夫の部屋の荷物は忙しくて荷造りしきれてなかったのだ。
 後輩に頼んで家具を処分したというものの、荷造りのほうは進んでる気配がない。自分も手伝うとギャンギャン騒いで、この夕方、嫌がる夫をおしのけ部屋に乱入した。
(中略)
 驚愕と怒りを首の後ろで吸収し、両肩で耐えていると、夫がどこからか魔法のように焼きそばを取りだした。まぁ~、食べて~、落ち着いて~、というようにわたしの口に焼きそばを無理やり押しこむ。一、二回、無意識かつ無感動に咀嚼したものの、そのまま口から簾のように焼きそばを垂らして、動きを止めた。いまにも、ちっちゃい常連のおじさんが「大将、やってるかい?」と顔を出しそうな簾っぷりだ。引き続き、ひたすら肩でじっと耐えていると、夫がその肩を三回も無邪気に叩いた。……顔を上げる。
 すると、絶対にわざとの優しげな声で、

夫「“伊賀野カバ丸”みたいになっているよ」

 ブツッ。
 と、前歯で焼きそばの簾を噛み切る。ぶんっと肩をまわして夫を振り切り(夫の推定体重は44,5キロである。たぶん本気になれば投げ飛ばせる)、新宿から抱えて地下鉄丸の内線でもってきた段ボール6箱を組み立てようとする。
 と、焼きそばをエイッと放り捨てた夫が、こんどは、どっからか魔法のように出してきたでっかいフォークギター(それも早く梱包してっ!)を構えて、とつぜん弾き始める。目を見ると、座って演奏を聴け、と命じている。仕方なく、段ボールをおいて床に正座し、呆然と目を閉じる。
 演奏が始まる。
 なにか歌うのかな、と思って、首をかしげ(肩のほうはずっと“耐える係”でがんばってる)、聴く。
 ジャカジャカジャーン!
 ジャカジャーン!
 ジャンッ……。
 ………。
 ……。
 前奏だけで終わった!?
 ゆっくりと目を開けると、夫が“ドヤ顔”でこっちを見下ろしている。どうやらわたしのコメントを待っているようだ……。
 ブツッ。
 焼きそば簾を前歯で噛み切ったわけでもないのに、頭の中でおおきな音がする。なんの音だろうか? 堪忍袋の緒だろうか?
 黙って立ちあがると、阻止しようとする夫を肩で振り切り、段ボールを組み立てて荷物を放りこみ始める。背後で夫が、フォークギターを構えたまま、か細い悲鳴を上げる。

夫「女の子はそんなことしなくていいんだ!」
わたし「誰が女の子だっ。わたしはこれまで、がんばって一人で、片付けて、働いて、ときには泣いて、生きてきたんだっ。女の子なんかじゃねぇ!」
夫「女の子にそんなことはさせられない!」
わたし「女の子じゃないってば。ぜったいちがうっ」
(中略)
そして、いやがる夫を肩でふりほどいては、持参したのともともとあったのと合わせて、段ボール12個に荷物をどんどん詰める。
 2時間かかる。
 箱を積みあげ、どうだ、すげぇだろう、やったぜ、と“ドヤ顔”でふりかえる。すると夫は、心底あきれたような顔をして怖々と見守っている。
 褒めてはくれなかった。
 ……がっかり、する。



 注文した天津麺と餃子がくる。夫は、自分の生きるノリとちがいすぎるスピードと乱暴さで梱包されていく荷物(しかも大事な)を目の当たりにしたためだろうか、若干、グッタリして、黙って麺をつついている。新妻のほうは、女の子なんかではないゴウ腕を見せてやったのにぜんぜん褒めてもらえないので、己の生き様を否定されたように感じ、かつ、もしや余計なことをしただろうかと気になり、しょんぼり餃子を齧っている。
 ……ぽちゃっ。
 と、古池に蛙が飛びこんだような音が、響いた。
(えっ、ぽちゃって、何?)
 顔を上げる。
 あぁーっ、とおどろく。
 夫がなぜかラーメンのスープに餃子をつけて、ぽちゃっ、ぽちゃっ、と熱心に……洗っている。ラッコのようだ。彼はなにをしてるんだろう、と思って箸を止め、じっと観察する。夫は、動機はまったくわからないが箸ではさんだ餃子をラーメンのスープにつけて、右に、左に、前に、後ろに、とにかく洗い続けている。
(中略)
「事実は小説より奇なり」だ。もちろん現実はものすごいものだけれど、だからこそ、フィクションというものは、それを力ずくで無理やり超えねばならんのだ。
 そう、フィクションは……。
 ラーメンのスープで餃子を洗う夫、という驚天動地の現実をも力技で越えていかなくてはならないのだ。夫をちらちら見ながら(ま、まだ洗ってる)、めらめらと作家魂が燃えさかる。くそ、こんなことに負けていられねぇぜ。


と作家として乗り越えようとする。

 夫も耳を澄ましている。うれしそうに微笑みながら。聞き耳を立てているせいかだんだん背中が曲がってきて、あれ……髪の先が(茶色っぽい長髪である)餃子のたれを入れた小皿の、ラー油がたまってる辺りについてしまった。
 びしりと指差し、

わたし「ラー油がついてるよ!」

 と指摘すると、夫がおどろいて、海老のようにビクッとのけぞった。その途端にスープから箸が顔を出して、餃子から中身がぼちゃりと落ちて消え、後には箸の先に、真っ白な皮だけが、天の羽衣のように残っているばかりだった……。
 驚愕の表情で凍りつく夫。
 箸に残された、餃子の皮。
 髪の先からぽたぽたと落ちる、動脈血のようにドロリと赤いラー油。
 ……頭を抱える。
 フィクションは、フィクションは、こういう現実をも超えて空高く飛ばなくてはならないのだ。それがわたしの仕事なのだ。この戦争はずっと続く。死んでもどっこい終わらない。わたしの信仰にして、わたしの第一の夫、フィクションは……。
 えーと、フィクションは……えーと……。
(こんなすごいシュールな絵面、作家が、思いつけるかなぁ……)
 落ちこんでくる。
(中略)
しかし、この人はどうしてこんなに面白いのだろうか……。
 悩んでいると、凍りついていた夫がいつのまにか自然解凍され、「疲れたの? 女の子なのにがんばったからだな。今日はありがとう」と慰めてくる。ちっがーう!
 わたしは作家で、ほかの多くの人と同様、戦いもがいて生きるちっちゃな糞袋であり、断じて女の子なんかではない……(10年ぐらいかけて説明しよう……)。


わたし「どうして」
夫「……なにが?」
わたし「どうして餃子をラーメンのスープで洗ってたの!?」
夫「なんだ。そんなこと」

 ゆっくりと夫が目を開ける。
 起きあがって、長い髪をかきあげ、ユラユラと首を揺らしながら、

夫「明日、仕事だから」
わたし「仕事だからラッコみたいに餃子を洗ったの? しつっこいようだけど、ラーメンのスープで!? なんでなのっ?」
夫「……大蒜(にんにく)の臭いで周りに迷惑をかけたくないなと思ったから。おやすみ。また明日ね」
わたし「……」

 と言って、目を瞑ったと思ったらもう寝息が聞こえてきた。どうやらとても疲れてるらしい。
 探偵(わたし)は、当初、犯行の異常性に気を囚われていた。だが、犯人(夫)の動機は意外なことに常識的かつ善良なものであった。
 なんだ……。
 と、ニヤニヤしながら目を閉じる。



 それと『赤朽葉家の伝説』のスピンアウト暴走族小説『製鉄天使』を読みたいのだ。

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【2009/04/09 02:19】 | 奈良たかし・本の話
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 直木賞作家の桜庭一樹さんが、入籍した。驚いた。結婚しそうにもない人だったからだ。それは私の偏見だったらしい。なにしろ新宿の古い9畳のワンルームマンションで机二つを並べてキチキチで暮らしていると思っていたからだ。
おめでとうございます。

 

続々・桜庭一樹 読書日記 【第11回】 2009年2月

2月某日

 じつは入籍した。
 しかし、そのまままっすぐ『赤朽葉』のスピンオフ『あいあん天使!(仮)』の缶詰に入ってしまったので、今日まで担当編集さんたちに言いそびれたまま原稿書きに追われている。でも、ずっとお世話になってる人にはもう言わなくちゃ……。
 夫はまったくちがう世界の人で、そのせいもあってか、こっちの業界では誰からも「……結婚した?」と聞かれない。でも、もう言おう……。

http://www.tsogen.co.jp/web_m/
sakuraba0903_1.html


 新作『ファミリーポートレイト』を図書館で借りたが、100ページくらいで見事挫折した。南米風のマジックリアリズムに弱かったのか。ああ。

 そのくせ、読書日記は全部完読している。とても桜庭一樹ファンなのである。

 桜庭一樹の母方の祖母は、戦争で家も財産も何もかもなくして島根の山奥にたどりついたという。直木賞の授賞式に招いた。「去年、祖母から「2月22日はわたしの生涯でいちばんの晴れの日でした」と手紙をもらったとき、床に膝をついてオイオイ泣いたのを思いだす。」祖母が子供だった桜庭さんに少年少女文学全集を1冊づつ贈って彼女は本の世界に親しむようになった。祖母こそ作家を生んだ源泉なのだ。

 勝手なことを書いて悪いが、まだまだ波乱万丈であろう。

 わたしも小学校のころ、少年少女文学全集を読んで本好きになった。それで身近に感じるのかもわからない。彼女が転機としたガルシア・マルケス『百年の孤独』を私も読みたい。はたしてどうなるか。

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【2009/03/06 00:06】 | 奈良たかし・本の話
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