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優雅なハリネズミ
ミュリエル・バルベリ
早川書房 ( 2008-10-09 )
ISBN: 9784152089632
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 『優雅なハリネズミ』を読んだ。おもしろかったがいろいろ複雑な思いが交差した。
 この小説は本国フランスでは、発売した時は注目を集めなかったが、書店員の推薦と口コミでロングセラーとなり、フランス版本屋大賞の「書店員賞」を受賞した小説である。
 しかし、百万部も売れた時点であげてもほとんど何の意味もないと思うが。それ以後30万部売り上げたがこの書店員賞のおかげではないだろうし、日本とシステムがだいぶ違う。「書店員の推薦」とあるのは、何か事前推薦をして広める仕組みがあるのだろうか。

 著者ミュリエル・バルベリさんはフランス人女性で、日本趣味として一部で有名である。私もそちらのほうで、まず知ったのだ。なにしろ、現在はご主人とずっと夢だったという日本の京都で暮らしている。

 しかし、フランスは強烈な階級社会なのだなと思わざるを得ない。主人公管理人のルネは、貧しい階級の生まれで美人でもない。学歴もなし。しかし、知性は高い。それで高級アパート(日本の億ション)の管理人になると、「愚か者」(そういう描かれ方)を装い、テレビなどの音声を流して一人閉じこもり本や熱烈なファンとなった小津安二郎の映画を見て過ごす。
 美人だった姉は貧しい階級だった故に悲劇に見舞われたということもある。しかし、このお姉さんの悲劇は、現代の小説で描かれることとはとても思えない。16世紀の農奴制社会みたいだ。しかし、書かれるというのはあるということなのだろう。恐ろしいところだ。

 英国の労働者階級と上流階級社会は部分的に知られている。まあ、日本で描かれる寛容なイギリス社会のエッセイや紹介本はすべて上流階級の中を描いたものにすぎない。それはあまり知られていない。すべて言葉も違い労働者階級では排他的で保守的なのだ。サッカーのベッカムが、億万長者になっても反発を恐れ労働者階級の発音しか使わなかったように。

 しかし、フランスでもより深く階級社会なのだとは知らなかった。階級が下の者は知識や教養があって、知っていてはいけないのだ。

 一方の住人の娘、12歳のパロマも天才的な少女だが隠している。そして早くも世の中に絶望して自殺願望を強めている。

 しかし、やがて引っ越してきたばかりの日本人オズ・カクロウが二人の知性を見抜いたことで物語が動いて行く。知性あるものの姿が少しどうかな、優越的に描かれすぎではと思ってしまう。

 日本趣味が横溢していて深い影響を与えている。それはフランス社会の在り方が当たり前なので描かれないので対比しにくい。だから日本の良さが日本人の読者では分かりにくいと思う。
 しかし、ラストは納得できるものではない。知性を明らかにしてはやはりいけないのかなと思ってしまう。そんな書き方だ。ミュリエル・バルベリとフランス人読者の限界なのか。

 それと金持ちで寛容な日本人オヅ・カクロウも、フランス人が思う期待する日本人でありすぎる。
 ミュリエル・バルベリの日本に関しての訳者の伝聞「著者は現在、ご主人とともにずっと夢だったという京都で暮らしていて、日々、日本が好きになっていくそうです。ある日、著者からもらったメールにこう書いてありました。「どうしてそんなに日本が好きなの? と、日本の人に不思議そうに訊かれることがあるけれど、好きになるというのは、良くない部分に目をつぶることではないのよ。本質的な部分を愛するということなの」完璧な日本を求めているわけではないし、日本の人々は日本人としての誇りをもっと持っていいのだといつも励ましてくれます。」
 これは、疑い深い私としては話半分なのだ。

 確かに、フランス社会は、知り合いでない普通の対人接遇や社会サービスの面では最悪に近いようだ。冷たいし、何が起こっても責任などかけらも認めない。だからこそより高次な社会の不正に関して社会の人々が集まって変えていこうとする意欲と力は日本よりもはるかに高いのではないでしょうか。
 一時期をのぞいて日本では変革を基本的にあきらめていると思う。

 日本社会も10年ほど前、そして何より小泉改革前までは基本的にいい国だった。人を大切にして見守っていた。基本的に信頼と友愛の国でした。それが今や40万人以上を寒空の中に放り出して路頭に迷わせても何もせず素知らぬふりをする。これは最悪に近い国のあり方ではないでしょうか。今の日本を好きになれないでいる。
 読んでしみじみ思うのは、愛せる日本にしたいなという気持ちだ。
 ミュリエル・バルベリさんが、日本人としての誇りをもっともっていい、といったら、そうですねと素直にうなづける国でありたいということなのだ。

 第3作となる次回作は、いよいよ日本の京都を舞台にして、庭園や美をモチーフにしたものになる予定。しかし、できることなら日本からフランスにつなぐエッセイをどこかの出版社が連載依頼してほしい。ぜひ読んでみたいのだ。


2. 梅まつりさんから「京都に住んでおられます」というコメントをいただいて、下記の記事でミュリエル・バルベリさんが京都で家を購入されたことを知った。講演先の日仏学館の半年の予定で滞在というのは初めの予定だったようだ。ということで京都に住んでおられると認識しました。コメントをいただいた梅まつりさんありがとうございました。

仏ベストセラー作家 京で構想次回作
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kyoto/
news/20090228-OYT8T01093.htm

「シンプルで自然な日本の庭が好き」と話すミュリエル・バルベリさん(左京区の関西日仏学館で)  フランスでベストセラーになった「優雅なハリネズミ」(邦訳・早川書房刊)の作家ミュリエル・バルベリさん(39)が次回作準備のため京都暮らしを始めた。テーマは日本の庭という。(森恭彦)

 「優雅な――」は、並み外れた知性を隠して高級アパルトマンの管理人を務める未亡人と、住人で自殺志願の12歳の少女が、新しく入居した日本人紳士オヅさんと出会い、変わっていく物語で、250万部というフランス小説では今世紀最高の売り上げを記録。

 関西日仏交流会館・ヴィラ九条山(山科区日ノ岡)に招かれて昨夏来日し、今年から左京区吉田に購入した家に移った。「思いがけず本が売れたおかげで、世界で一番好きな場所に住むことができる」とバルベリさん。

 日本との出合いはマンガだった。「特に谷口ジローが好き。恥ずかしいけれど小説はあまり読んでいない」と照れる。それでも谷口の「『坊っちゃん』の時代」に触発されて最近、夏目漱石を読んでいるという。

 「日本人はユーモアがないと言われるが、漱石の『吾輩は猫である』は、ヨーロッパのどのユーモア小説より笑わせてくれた」

 前回2006年に来日した際、訪れた桂離宮庭園が「最初の衝撃だった。これほど洗練された素晴らしい庭は初めてだった」。その後、京都や金沢の庭を見て回り、「今ではよりシンプルで自然な庭が好き。大徳寺の高桐院は、一面のこけをカエデが囲む。竹林の中、石畳がまっすぐ延びる参道もいい。ここはきっと次回作に使う」と話す。

 「フランスの庭は幾何学的で、自然を支配、所有する気持ちの表れ。日本の庭は調和を重視し、自然と人間の垣根がない。夢の中のような気分になる」

 庭以外にも「いろいろ素晴らしいものに出合った」という。「能、琴や尺八の音楽。囲碁は日本に来る前から好きだった。日本人の優しさも発見の一つ。そうそう、イチゴ大福にもびっくりした」と笑いながら教えてくれた。

 次回作の刊行は未定。「締め切りがあると書けないたちなので」。

(2009年3月1日 読売新聞)


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1. おや、2008年11月14日の時点で、半年の予定で滞在だと書いてある記事を見つけたので引用する。このとおりだとすると、第三作の為の長期取材滞在だということになる。本にも訳者後書きに書いてある「現在はご主人とずっと夢だったという日本の京都で暮らしている」というのは、嘘だということになる。話題作りのためか、あざといではないか。


 現在、6ヶ月の予定で来日。京都の関西日仏交流会館(ヴィラ九条山)に滞在し、3冊目の作品を準備中、扱われるテーマは日本庭園である。

「判っているのは、この小説は、日本を、その殆どは京都を舞台にし、私にとって大切なテーマ、つまり美的な完璧さ、芸術的深さ、絶対性の探求などを扱うことになるだろうということだけです。けれども、日本の文化に触れる機会が増えたことから、自分と日本文化との関わりを通じてその小説を書くことになるでしょう。日本の文化について私は何らの専門知識も持たず、ただ深く通じ合えるだろうという予感がしているだけですけれど。」
http://www.ifj-kyushu.org/jp/event/2008/
ev_jp081114190000.html




ミュリエル・バルベリ ブログ(フランス語版のみ)
http://muriel.barbery.net/
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【2009/02/15 19:36】 | 奈良たかし・本の話
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Re: 京都に住んでおられます
奈良たかし
> 3月1日の読売新聞京都地域面に彼女のインタビューが載ってました。「昨夏来日、今年から左京区吉田に購入した家に移った」とあるので、定住先が決まるまで一時的に関西日仏交流会館に滞在したということではないでしょうか。

 梅まつり様
 教えていただいてありがとうございました。読売京都版確認しました。エントリも追記修正しました。九州日仏学館の「半年の予定で滞在」という記事は最初の予定だったのではないでしょうか。

京都に住んでおられます
梅まつり
3月1日の読売新聞京都地域面に彼女のインタビューが載ってました。「昨夏来日、今年から左京区吉田に購入した家に移った」とあるので、定住先が決まるまで一時的に関西日仏交流会館に滞在したということではないでしょうか。
日本庭園にかなり衝撃を受けたみたいですね。いちご大福にも驚いたとか(笑)
「締め切りがあると書けないたちなので」次回作の刊行は未定だそうです。

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